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『九桂草堂随筆きゅうけいそうどうずいひつ』巻八には、また次のような話がある。広瀬旭荘ひろせきょくそう先生の実験である。「我郷わがさと(豊後日田ひた郡)に伏木という山村あり。民家の子五六歳にて、夜啼なきて止やまず。戸外に追出す。其傍そのかたわらに山あり。声稍※(二の字点、1-2-22)やや遠く山に登るやうに聞えければ驚きて尋ねしに終ついに行方知れず。後のち十余年にして、我同郷の人小一と云ふ者、日向の梓越あずさごえと云ふ峯を過ぐるに、麓ふもとより怪しき長たけ七八尺ばかり、満身に毛生じたる物上のぼり来る。大いに怖れ走らんとすれども、体痺しびれて動かず。其物近づきて人語を為し、汝なんじいづくの者なりやと問ふ。答へて日田といふ。其物、然らば我郷なり。汝伏木の児こ失せたることを聞きたりやと謂いふ。其事は聞けりと答ふ。其物、我即ち其児なり。其時我今仕つかふる所の者より収められて使役し、今は我も数山の事を領せりと謂ひて、懐ふところより橡実とちのみにて製したる餅様もちようの物を出し、我父母存命ならば、是これを届けてたまはれと謂ふ。何いずれの地に行きたまふかと問ふに、此これより椎葉山しいばやまに向ふなりと言ひて別れ、それより路みち無き断崖に登るを見るに、その捷はやきこと鳥の如しといふ。話は余よ少年の時小一より聞けり。是れ即ち野人なるべし。」
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