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東京へ帰るには、二十円も工面しなければならぬと云う事が頭にちらつく。人よりに非ず、人に由よるに非ず、イエス・キリスト及びこれを死人の中より甦よみがえらせ給いし父なる神に由りて使徒となれるパウロ。小説を書く筆者の琴線がたかなることなくしては、神は人のうわべをとり給わずである。自分にそのような才能があるとは思えない。書いても、書いても突き戻されていることに赤面しないあつかましさ。しりめつれつな心理の底をくぐる。小さい魚の影を追うようなものだ。まことしやかに活字が並ぶ。血へどを吐いたものはみるにも読むにもたえぬ。警察の眼も光る。無政府主義とは唄ではないのだ。それを願う願いは、この世の何処かにあるのだけれども……。お伽とぎの世界をねらう平和な獣だけの理想の天地。宮様がお通りになるからと云って、一日じゅう障子を閉ざして息を殺していなければならぬ私は階級なのだ。そして、宮様は一瞬にして雲の彼方かなたに消えてゆく人である。どうして、そのような人を尊敬しなければ生きてゆけないのだろう。
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