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矢島優善をして別に一家いっかをなして自立せしめようということは、前年即ち安政六年の末すえから、中丸昌庵なかまるしょうあんが主として勧説した所である。昌庵は抽斎の門人で、多才能弁を以て儕輩せいはいに推されていた。文政元年生うまれであるから、当時四十三歳になって、食禄二百石八人扶持、近習医者の首位におった。昌庵はこういった。「優善さんは一時の心得違ちがえから貶黜へんちつを受けた。しかし幸さいわいに過あやまちを改めたので、一昨年故もとの地位に複かえり、昨年は奥通おくどおりをさえ許された。今は抽斎先生が亡くなられてから、もう二年立って、優善さんは二十六歳になっている。わたくしは去年からそう思っているが、優善さんの奮って自ら新あらたにすべき時は今である。それには一家を構えて、責せめを負って事に当らなくてはならない」といった。既にして二、三のこれに同意を表するものも出来たので、五百いおは危あやぶみつつこの議を納いれたのである。比良野貞固さだかたは初め昌庵に反対していたが、五百が意を決したので、復また争わなくなった。
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