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比良野貞固さだかたは抽斎の歿した直後から、連しきりに五百に説いて、渋江氏の家を挙げて比良野邸に寄寓せしめようとした。貞固はこういった。自分は一年前ぜんに抽斎と藩政上の意見を異にして、一時絶交の姿になっていた。しかし抽斎との情誼じょうぎを忘るることなく、早晩疇昔ちゅうせきの親したしみを回復しようと思っているうちに、図らずも抽斎に死なれた。自分はどうにかして旧恩に報いなくてはならない。自分の邸宅には空室くうしつが多い。どうぞそこへ移って来て、我家わがいえに住む如くに住んでもらいたい。自分は貧まずしいが、日々にちにちの生計には余裕がある。決して衣食の価あたいは申し受けない。そうすれば渋江一家いっけは寡婦孤児として受くべき侮あなどりを防ぎ、無用の費ついえを節し、安んじて子女の成長するのを待つことが出来ようといったのである。
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